インボイス制度・免税事業者の仕入先との取引条件交渉には独占禁止法違反にならないようご注意を

 

 経営相談・税理士業務

こんにちは、税理士の吉田です。

インボイス制度施行が令和5年10月1日開始と近づいてきました。

国税庁の情報によると、2023年3月末で課税事業者の登録率は法人89.0%、個人77.8%とのことで、登録しても税負担が変わらない課税事業者でさえまだ登録が進んでいないといえる状況かも知れません。

インボイス制度は、免税事業者(売手)に不利な制度と言われていますが、課税事業者(買手)にも不利益が大きくなると想定されています。

それが、独占禁止法や下請法との関係です。

免税事業者からの仕入はインボイス施行後どうなるか?

仕入税額控除に制限がかかる

インボイス制度施行後は、課税事業者(買手)がインボイス発行事業者でない事業者(インボイス施行後の免税事業者である売手)から仕入れた場合、消費税の控除(仕入税額控除)に一定の制限が加わります。

(仕入税額控除の制限)

施行前→100%控除

施行後→3年間は80%控除、さらにその後3年間は50%控除、それ以降は0%控除

このような制度になっているため、買手、売手双方で今後の取引形態の見直しが必要になってくると想定されています。

免税事業者にインボイス登録を促す、未登録なら取引価格を交渉するような流れに

買手である課税事業者は当然100%の仕入税額控除を望んでいるため、売手にはインボイス登録をするよう案内している先も多いかと思います。

ただ、売手である免税事業者からすればインボイス登録すれば課税事業者になり消費税の負担が増え、インボイス登録をしない事業者もかなり多くなると想定されています。

この場合に買手である課税事業者は、今まで通り支払うと仕入税額控除に制限が加わるため損をしてしまいます。

よって、インボイス未登録の売手事業者に対して取引価格の変更を求める、といった流れが想定されています。

取引価格の見直し交渉時の具体的な留意点

独占禁止法、下請法違反に注意する

まず、買手が売手にインボイス制度施行を契機として取引価格の見直し交渉をすること自体には違反になることはありません。

免税事業者と取引することで、買手の消費税負担が増えることは事実なので、コスト上昇による取引価格の見直しを検討することは必要なものと思います。

ただし見直しに当たっては、買手が「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。

詳しくは公正取引委員会のQ&Aに掲載されていますが、ポイントのみ以下に解説していきます。

私の解説はポイントを絞りかなり簡素にしていますので、必ず公正取引委員会のQ&Aをご参照ください。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

取引価格の値下げ交渉

全ての取引条件変更の場合にも該当しますが、双方納得の上で取引価格を設定すれば優越的地位の濫用には当たりません。

ただし、交渉が形式的なものにすぎず、買手の都合のみで著しく低い単価を設定したりすると優越的地位の濫用に当たります。

公正取引委員会の書き方が非常にあいまいですが、買手が値下げ交渉する時点で売手が強制と感じてしまうこともあるのかも知れませんので、かなり繊細な問題だと思われます。

買手が価格交渉を拒否した場合でも今まで通りの取引条件で取引を行う姿勢を見せることなどで、優越的地位の濫用に当たらないよう気を付ける必要があると思います。

また、インボイス登録を行い課税事業者となった売手が、消費税負担増加のため価格の見直し交渉を行われた場合も同様なので、優越的地位の濫用に当たらないよう注意が必要です。

商品等の受け取り拒否、返品

インボイス未登録を理由として商品の受け取り拒否や返品を行うことは、優先的地位の濫用になります。

事前に返品となる場合の基準を示し、売手でも金額が計算できるなど行っておく必要があります。

なので、まず売手にインボイス登録番号を通知してもらいその上で対策を練る、ということが必要になってくるかと思います。

各種負担の要請等

インボイス未登録を理由として以下の名目で負担を要請することも、優先的地位の濫用になります。

・協賛金等の負担

・購入・利用強制

取引の停止

インボイス未登録を理由として著しく低い金額を提示して、これに応じない相手との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。

これも書き方が非常にあいまいですが、あからさまに取引停止をちらつかせて価格交渉等をすることは控えた方が良いでしょう。

インボイス登録を促す行為

先に解説した通り、インボイス登録を促しても直ちに独占禁止法上問題となるものではありません。

ただし、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。

まとめ

公正取引委員会では、以下のように書かれています。

取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。

また非常にあいまいな書き方なのですが・・・、優先的地位の濫用に当たらないよう、かなりの注意が必要です。

売手の消費税負担、インボイス登録事業者になる・ならないなどを考慮して、買手の消費税負担を理解してもらえるよう交渉を続けていくべきかと思います。

 

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吉田匡

1980年(昭和55年)生まれ、新陽税理士事務所、代表税理士。
2012年(平成24年)に開業、ホームページ・ブログを見てご依頼頂くことがほとんどです。
経営者・個人事業主・創業準備中の方向けに、税金や経営に関すること(たまにプライベートも)を発信しています。
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