独立から13年目、税理士事務所の役割を考えてみた。

こんにちは。税理士の吉田です。

私は2012年に独立して、今年(2024年)で独立から13年目になりました。

この業界に入ったのは2002年なので、業界歴としたら23年目です。

ただ税理士になりたいという思いだけで独立開業し、最初は役割なんかも気にせずガムシャラにやっていました。

税理士の役割とか考える間もなく、実務を覚え、数多くの申告代理をしてきました。

たくさんのお客様と接する中で、税理士に求められているもの・役割が少し見えてきたように思います。

税理士の使命とは?

税理士法第一条に「税理士の使命」が記載されています。

(税理士の使命)
第一条 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
e-gov.go.jpより抜粋)

ちょっと堅苦しい内容ですが、「お客様寄りにも税務署寄りにもならず、公正に税務判断をすることでお客様の信頼に応える。」という内容だと考えています。

世の税理士全て、この使命を全うするために仕事をしているはずですし、私も特に「独立した公正な立場」というのは資格者として常に意識しています。

事業を持続させる、つぶさないこと

私は、「事業を持続させること、つぶさないこと」を意識するようになりました。

この業界に入ってからの23年間を振り返ってみると、

・バブル崩壊後に立ち行かなくなった

・リーマンショックで売上が大幅に減少

・コロナでインバウンドがゼロになった

などなど色々なことがありました。

また、社会情勢に関係なく、取引先が倒産した、売掛金が回収できない、借金が払えない、などお客様単位で経営的にかなり窮する局面に立たされた方も多く見てきました。

その結果、事業を縮小したり、廃業したり、さらには自己破産や最悪の結果になってしまったこともありました。

自分自身も独立後全く売り上げが伸びず、暗中さまよっていた時期もあったので、暗い気持ちになるのも相当理解できます。

悪い時こそきちんと現状を把握すること

業績の悪い時は、「数字をみても意味がない」と思い始め、最終的には「数字をみたくない」という気持ちになってしまいます。

一人で数字を見て落ち込む・・・、という気持ちは本当にわかるのです。数字を見てもどうしていいかわからない・・・という気持ちも。

一人で見る必要なんてなく、そのために税理士がいます。

私は淡々と数字を説明するかも知れませんが、社長に何かに気づいて欲しくて説明しています。

損益計算書からは、売上高、粗利率、固定費、経常利益から、何か収益力がアップできる施策は無いか。

貸借対照表からは、今後の資金繰り、取引先の与信管理(今後も継続取引しても問題無いかどうか)、固定資産の整理、負債の支払方法など改善できるところは無いか。

ですが、私から提案することはあまり多くはありません。

節税や会計のやり方については提案しますが、「経営のやり方」に関しては最低限にとどめています。

経営コンサルに憧れていた時もあり、「あれもこれもと提案することが良いことだ」と考えていた時ほど、とりあえず相手は聞いてくれますが、良い結果に結びついたことはありません。

代表者自らが気づき、考える、ということができないとやらされ感が強くて実行に移せないと思っています。

なので、きちんと現状を把握してもらって代表者自身で考えることが大切なのだと気づきました。

今すぐに検討すべきこと

業績の良し悪しにかかわらず、数字上見た方が良い代表例を列挙します。

取引先の入金が遅くなっていないか?

取引先の入金が遅くなると黄色信号です。

「ちょっと入金が遅れていて」「忘れていてすぐ振り込みます」など言い訳されることもあると思いますが、言い訳は話半分で聞いた方が良いです。

取引先のことは信頼して良いと思いますが、お金に関しては信用してはいけません。どんな仲の良い相手であってもです。

仲の良い取引先ほど、正常バイアスが働きます。

正常性バイアス(せいじょうせいバイアス、: Normalcy bias)とは、認知バイアスの一種。社会心理学災害心理学などで使用されている心理学用語で[1]、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知の特性のこと。

自然災害や火事、事故、事件などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい[2]、都合の悪い情報を無視したり、「前例がない」「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となる[3][2][4]。「正常化の偏見」[5]、「恒常性バイアス」とも言う。

(Wikipediaより抜粋)

自分だけは大丈夫なんてありません。

私は十数年来の取引先の債権が不良債権化した例はいくつも見てきています。

税理士はたくさんのお客さんの事例を見ているので、「先生、この取引先は大丈夫ですよ」と言われても、一回の入金遅れが大惨事を招くことを知っています。

石橋は叩いて渡る、ではないですが、叩ける木槌があるのに叩かないのはもったいないですね。

資金繰りを予測する

短期的な資金繰りは特に資金繰り状況が悪い会社では、誰でも気にしていると思います。

逆に年単位の資金繰りはそこまで気にしていないことも多いです。

たとえば、

「前期と同じ経常利益で、1年後のお金はいくらになっているか?」

これを予測するだけでも借入や借り換えのタイミングが見えてきます。

資金繰り(キャッシュフロー)は正確に把握すると難しいですが、ざっくりとなら以下の方法で計算できます。

「税引後当期利益+減価償却費-借入金等の返済」

これがマイナスなら、現預金残がそれだけ減ることになります。

借入するにも時間がかかるのと、期首から数か月たってしまうと直近月までの試算表の提出を求められたりもします。

状況によりけりですが、直近の試算表が良い状態になっているとも言えないので、早めに試算し対策していった方が良いでしょう。

今後支払う税金の見込みを考える

これも当たり前のことですが、現状の利益でどれだけの税金がかかるか把握しておくことです。

また、消費税は毎月計算できるので、教えてもらうと良いと思います。

弊所の場合は、毎月消費税の金額をお伝えしていたり、試算表上も税込み経理なら概算で未払計上し、納税額をわかりやすくしています。

もちろん決算が終わるまでは正確な金額はわかりませんが、大枠で予定しておくことは大切です。

それだけ税金の支払いは大きいものです。

売上アップ、粗利アップ

日々どうやって売るか、取引先にどのような提案して売上を上げるかは、常に考えていることろだと思います。

いわゆる戦術的な部分ですね。

もう少し戦略的な部分・・・とまではいかなくても、一歩引いて考えると良いと思っています。

新しい商品・サービスの提供、仕入先との交渉、単価の見直し、広告宣伝のやり方など、もう少し川上の方からみていくと良いと思います。

また、売上アップは集客アップが基本になると思いますが、集客するのは本当に難しいですね。

たくさんトライすることが大事です。動きながら考えるくらいでちょうどいいと思います。

いつも同じ商品・サービスを売っていると、それが当たり前になってきます。

これも正常バイアスなのかも知れません。

どんな施策を打ってもダメだと感じてる人も多いかも知れませんが、世の中の成功者の方もたくさん失敗しています。

一勝九敗というぐらいですから。

メンタル的にやられる、落ち込むことも少なくないと思います。

でも厳しい言い方ですが、それが独立するということ、経営者になるということです。

そんなときこそ税理士との定期的な面談は活かしていって欲しいと思っています。

固定費(経費)を考える

例えば光熱費、通信費、旅費交通費などは、無駄に使っているということはあまりないのではないでしょうか。

それよりも、広告宣伝費、接待交際費、福利厚生費、販売促進費は毎月チェックした方が良いと思います。

何となくという気持ち、惰性で使いそうな勘定科目です。

実際に「広告をやめてみた」「交際費を極限まで減らした」という施策をしても、売上は経費以上に減らなかった、ということも多いです。

特に交際費を使って集客するより、広告費を使って仕組化した集客をする方が将来のためにもなります。

また、交際費は麻薬みたいなもので、打ち続けないとなりませんし、夜の飲み会が多くなると仕事へのパフォーマンスも下がってしまいます。

それよりも正攻法でお客様への提案や仕事の質などを上げていった方が正のスパイラルで回ると思います。

やめるのが不安・・・というなら、2~3か月程度やめてもいいと思います。

もしダメならまた復活させれば良いのですから。

まとめ

長年経営していると、惰性、なんとなく、が続いてしまいます。

やるべきことを後回しにすることが負のスパイラルを招いてしまいます。

せっかく税理士に依頼しているのですから是非有効活用して頂きたいと思っています。

また、税理士にはたくさん聞いた方が良いと思います。

「うちの税理士、何も提案が無い」という話もきいたことがありますが、税理士は税理士として「提案してもうざがられる」と思っているかも知れません。

私も説明してても、あんまり聞き耳立てていただけていないと感じたら、次回から控えめにすると思います。

なので、積極的に関りをもって話せば応えてくれる税理士も多いかと思います。

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 この記事の投稿者

吉田匡

1980年(昭和55年)生まれ、新陽税理士事務所、代表税理士。
2012年(平成24年)に開業、ホームページ・ブログを見てご依頼頂くことがほとんどです。
経営者・個人事業主・創業準備中の方向けに、税金や経営に関すること(たまにプライベートも)を発信しています。
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